ロッケン的デザインスコープ「焼菓子のデザイン」篇
2023.12.19
地産クッキーから、ご当地の可能性について考えてみた
◎ 「これぞ東北産だなぁ」のふたつのクッキー
東北のあちこちのお土産品は、この10年間を振り返ってみても格段に美味しいものが増えたし、そのパッケージデザインのクオリティにも目を見張るものある。一方でご当地の「らしさ」の印象が薄れてきているようにも感じる。デザイナーは商品の本質や味、作り手の意志を意匠に翻訳するこを最優先するべきで、表層的な美しさを追求し「らしさ」を削ぎ落としてまで、洗練されたデザインをめざすべきではないと、ついついおじさんクリエイターは思ってしまうのだ。さて、そんな数ある東北の銘品・銘菓の中で、私が以前からとても気に入っている焼き菓子がふたつある。最中の皮とクッキーを掛け合わせた新食感の『NANJO da BE(なんじょだべ)』(山形県南陽市「菓匠 萬菊屋」)と、アップルファイバー入りクッキーで、ほのかにりんごの甘い香りがする『津輕(つがる)』(青森県弘前市「ラグノオ」)だ。共通しているのは、シンプルで甘さのバランスが絶妙、口の中でホロホロと溶けていく繊細さが心地よい。そしてクリエイターとしてこのふたつには、どうしても大きなアイデアと作り手のセンスを感じてしまうのだ。流行に左右されない、おそらく私は一生飽きずに買い続けるであろう焼き菓子だ。こんな素敵なクッキーをつくろうと考えた人は、美味しいお菓子を生み出すプロフェッショナルであることはもちろんだが、地域へのこだわりと愛情が、人一倍深い気がしてならないのだ。つくろうと思ったきっかけから完成するまでのプロセス(思考のデザイン)に、東北の課題を良い方向に導いてくれるヒントがあるかもしれないと感じ、お話を伺うことにした。(※私は食・スイーツの専門家ではないので、味に関する記述はあくまで個人的な意見。参考程度に留めていただきたい。)
◎ 「なんじょだべ」は、山形弁「いかがですか!」がネーミングの由来
山形県南陽市にある「菓匠 萬菊屋」さんは、江戸後期創業、赤湯温泉最古の和菓子屋として二百余年の歴史を刻む。現在、14代目でパティシエでもある後藤昌利(ごとうまさとし)さんを中心に、13名のスタッフが和菓子と洋菓子、地元で大人気のふたつの店舗を同じ敷地内で営業されている。昌利さんは約10年間大阪や東京の有名店でパティシエとしての修行を積み、家業を継ぐために2007年に帰郷したらしい。 「『NANJO da BE』は先代の父の時代にいたレジェンド職人が産みの親なんです」と教えてくれた。当時すでに看板商品だった「ごま最中」をつくっていた職人が、山形らしい素朴な味と香りがする最中の皮に惚れ込んで、試行錯誤の末、2000年に最中の皮と洋菓子のクッキーと合体させて完成したのが、洋風せんべい『アマンディーヌ』だ。皮には風味と香りのよい東北産もち米「みやこがね」を使用。瞬く間に人気商品となった。帰郷したばかりの昌利さんは、この和洋折衷クッキーに「和スイーツ」の未来を感じ、さらにブラッシュアップを図る。洋パートのクッキー原材料を山形産米粉に変更し何度も改良を重ね、新しいネーミングをお客様から募集、パッケージもリニューアルし、地域色を濃くした主力商品にまで成長させた。
◎芸術家のアイデア
青森県弘前市に本社・本店がある「ラグノオ」さんは、明治17年(1884年)「和菓子ささき」として創業。139年の歴史をもち、現在4代目の木村公保(きむらきみやす)さんが社長を務める、店舗数68、授業員400名をこえる東北を代表する菓子製造販売会社だ。人気商品『気になるリンゴ』や『パティシエのりんごスティック』の美味しさは折り紙付きだが、私のいち推しは『津輕』だ。これを発案したのは3代目社長の佐々木周平(ささきしゅうへい)さんだと、商品開発に携わっていた工藤富貴子(くどうふきこ)さんが教えてくれた。美術品コレクターで、芸術全般に造詣が深い佐々木さんは、地域の誇り太宰治の熱狂的なファン。「郷土を代表する作品、小説『津輕』の初版本(1944年発行)イメージをパッケージにして、地元らしい素朴なクッキーをつくりたい!」と言い出したのが始まりらしい。素材も小麦粉(「ねばりごし」)、鶏卵、そしてリンゴジュースの製造過程で残るりんご繊維、全て県産にこだわった。クッキーもパッケージも妥協を許さない佐々木さん。商品試作、印刷校正を何度繰り返したのか覚えていないと、工藤さんも当時を振り返る。こうして太宰治生誕100周年記念商品として「これは食べる小説です。」のキャッチコピーを合言葉に、2009年に発売されたそうだ。
◎思考のデザインを拡げてみよう。
取材を終えてある共通している思考のデザインを発見した。それは地域コンテンツの隠れた魅力を過小評価していないことだ。その魅力を信じる力がヒット商品を産み出している。ものづくりの姿勢そのものが、ブランドイメージとイコールになっていると感じた。でも素人の私が勝手なことを承知の上で申し上げると、さらに魅力は高めることができるのでは?たとえば 『NANJO da BE』にはクッキーをバンズのようにして、フルーツ王国山形の旬のフルーツをペーストで挟んだスライダー(ハンバーガーのミニチュア版)を南陽で食べれるメニューを開発するなんてどうだろう?『津輕』には、以前チャレンジされたと伺った「食べる小説・文庫本パッケージシリーズ」を復活させて、青森のアート作品集パッケージも加え「クッキー書房・ラグノオ堂」なるお店を弘前にオープンしたらおもしろいと思う。今年、かねてから気になっていた静岡の茶園が営むカフェで抹茶バフェをいただく機会があった。ここでしか味わえない想像をこえる美味しさが記憶となって、またあのパフェだけを食べに行こうと決めている。店内にいた多くの外国人も感動している様子で、間違いなくSNSの賜物だと実感した。いま世界中に販路を求めてECサイトでそのチャレンジしているケースは多い。一方でわざわざそこを訪れる理由をつくり、「地産地食の道」という視点も必要ではないだろうか。外向けのPR・販促メニュー「OUT」の発想と、内向きの体験メニュー「IN」の発想。そんな二刀流を模索することが地方創生の鍵に思えてならない。
ロッケンは、「東北をもっとおもしろくする」活動をひろげています。東北の隠れた魅力や価値の創造についても、再発見をしながら盛り上げていきたいのです。どなたかこんな野望をいっしょに取り組んでみませんか?
東北6県研究所 研究員 岡本有弘
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◎取材撮影ご協力先
- 株式会社 菓匠 萬菊屋 チーフパティシエ 後藤昌利(ごとうまさとし)様
山形県南陽市若狭郷屋728-1 TEL : 0238-43-2066 /FAX : 0238-43-6285
https://www.mangikuya.com/ ※詳しくは公式ホームページをご確認ください。
- 株式会社 ラグノオささき
マーケティング部 販売促進課 課長 兼 通販センター センター長 矢田千穂美(やだちほみ)様
マーケティング部 商品企画課 工藤富貴子(くどうふきこ)様
青森県弘前市百石町9 TEL : 0172-35-0353 /FAX : 0172-33-7917
https://www.rag-s.com/ ※詳しくは公式ホームページをご確認ください。
◎近隣の観光お問合せ先
◆南陽市観光協会(南陽市商工会館内) 山形県南陽市若狭郷屋839-1
TEL : 0238-33-9512 /FAX : 0238-33-9513
https://nanyoshi-kanko.jp/ ※詳しくはホームページをご確認ください。
◆弘前市立観光館
青森県弘前市大字下白銀町2-1
開館時間 : 9時~18時 (まつり期間は延長あり) 休館日 : 年末年始(臨時開館の場合あり)
TEL : 0172-37-5501 /FAX : 0172-39-6243
https://www.hirosaki-kanko.or.jp/edit.html?id=tourist_hall
※詳しくはホームページをご確認ください。
(上記は2023年11月時点の情報です)