【ストーリー】メモリートラベル

2020.09.24

ふとした瞬間に過去を振り返る、というのは、
私たちがなにげなく行っていることだと思う。
自分のルーツ、思い出の場所、人との出会い。

そんな「過去」を他の誰かと共有するバーチャルの旅が
ひそかに人気を集めているらしく、
妻との結婚30年を迎えた記念日に、
子供たちがメモリートラベルなる
プレゼントを贈ってくれた。
それは、好きな場所の好きな年月を
バーチャルで旅するサービス。
私たちは1985年の仙台を訪れることにした。

1985年は僕と妻が出会った年。
二人は仙台の同じ大学に通っていて、
教養の授業で知り合ったのだった。

妻と二人で自宅のソファに座る。
VRグラスに専用のソフトをインストールすると、
旅が始まった。
当時の仙台駅、大学の構内、
二人でよく訪れた喫茶店をめぐっていく。

これまでの生活の中で忘れてしまっていた感情、
時代の雰囲気、将来への期待や不安。
その時に感じていたいろんなものがよみがえってくる。

VRを楽しんだあとは、
当時通っていた定食屋のからあげセットを作って食べた。
昔はペロリと食べていたのに、
今となっては半分以上も残してしまった。
「私のおかげで、いい未来に来れたんじゃない?」
という妻の言葉に、
「うん、ありがとう」と答えた。

Future TOHOKUとは

新型コロナウイルスの感染拡大を経験した私たちが、10年後の東北にひろげていきたい日常のしあわせを、より前向きに描き、つくる、シンク&アクトプロジェクトです。
「距離観【きょりかん】~再計測する生活者~」というテーマのもと、今後実現・定着するかもしれない新しい営みを、
7つのテーマ(食生活 / 働き方 / 住居 / 趣味・学習 / 車・トラフィック / 観光・祭り / 健康生活)に分類し、希望的楽観により描きます。
日本や世界があこがれる「東北らしい、あったらいいな」な生活シーンの数々。皆さんの再計測や新しい営みのきっかけになるレポートや物語を定期的に掲載してまいります。

Future TOHOKU

writer:武田陽介