【ストーリー】 現代版「王様の耳はロバの耳」

2020.09.24

わたしはごく普通のサラリーマンだが、
5年ほど前から、
深夜12時から1時間だけの副業をしている。
それは、ただ、人の話を聞くというだけの仕事だ。
日中は営業職としてセールストークの
マシンガンを炸裂させている。
自分でいうのもなんだが、
話はうまい方で成績もいい。
しかし、営業の仕事は
人の話を聞くということが実は大事だったりする。
そのスキルを、活かした副業というわけだ。

『王様の耳の耳はロバの耳』という童話があるが、
他人には言えない秘密を
穴に向かって叫ぶことで気持ちがすっきりする
というのはいまも昔も変わらないようだ。
つまりわたしは、知らないだれかの「穴」として、
誰にも言えない秘密や悩みを、
ただ単に、本当に何をするでもなく聞いているのだ。
仕事の愚痴や、のろけ話、家族や友人関係など
聞く内容は実にさまざまだが、
アニメにハマったことを誰にも言えないという、
上場企業の社長の話を聞いたこともある。

わたしには悩みや不安を解消することはできないが、
誰かのこころの重荷を、
少しでも軽くできているのなら
自分が存在する価値はあるのかもしれない。

Future TOHOKUとは

新型コロナウイルスの感染拡大を経験した私たちが、10年後の東北にひろげていきたい日常のしあわせを、より前向きに描き、つくる、シンク&アクトプロジェクトです。
「距離観【きょりかん】~再計測する生活者~」というテーマのもと、今後実現・定着するかもしれない新しい営みを、
7つのテーマ(食生活 / 働き方 / 住居 / 趣味・学習 / 車・トラフィック / 観光・祭り / 健康生活)に分類し、希望的楽観により描きます。
日本や世界があこがれる「東北らしい、あったらいいな」な生活シーンの数々。皆さんの再計測や新しい営みのきっかけになるレポートや物語を定期的に掲載してまいります。

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writer:武田陽介